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2009/06/19

No.570 海事判例紹介-“Asia Star”シンガポールHigh Court − 2009年4月17日判決

| by:sysadmin
No.570
2009年06月19日

海事判例紹介


“Asia Star”-シンガポールHigh Court − 2009年4月17日判決



<序論>
2003年11月、用船者である原告は異なるSupplier 3社から購入した21,500mtの精製パーム油をトルコへ運送すべく、“ASIA STAR”を用船した。

その後2004年1月19日、本船のタンクは当該貨物の受け入れに不適当であることが判明したため、本船による運送は不可能と判断し、船主は運送をキャンセルせざるを得ないという結論に達した。

2004年2月13日、用船者はタンクの欠陥のため本船が不堪航であり、用船契約違反であるとして船主を訴えた。訴えは認められ、引き続き損害額の査定が行われることとなった。用船者は以下の損害額を請求した。
(a)Supplier 3社のうち1社との契約破棄により生じた損害US$698,889.98
(b)購入者への遅延損害金US$823,800
(c)Supplier 2社へ支払った積荷役期間の延長のための費用

また、原告は2004年1月19日Asia Starと比べ約2倍の40,000mtの貨物を積載することが可能であるPumaとの契約も考慮したが、Pumaは1月27、28日頃まで積荷役作業を開始することができなかった。翌20日、Pumaの船主はUS$27.50/mtの運賃を提示したが、用船者は最低でも36,000mtを積荷すること、及びUS$25.50/mtへの運賃の値下げを求めた。この要求は受けられず、Pumaの船主からの返答はなかったため、原告はPumaの用船を断念した。

第一審裁判所は、原告は交渉を断念するよりもPuma船主の求める運賃US$27.50/mtを受けいれ、約US$302,000の損害を防ぐべきであったと判断した。第一審裁判所は、損害額は別の船を用船した場合に用船者が船主に支払ったであろう運賃から、Asia Starの船主に本来支払うべきであった運賃を差し引いたものであるとした。

両者はこの裁定に満足せず、控訴した。

<事実確認>
・用船者である原告は積荷を異なるSupplier 3社から購入
・用船契約上の積荷期間は2003年12月27日から2004年1月4日の間であったが、その後2004年1月15日まで延期
・本船は1月15日になっても港へ到着せず、そのためSupplierのうち1社は1月21日までの期間延期に合意し、また残り2社は追加料金を受け取ることで、同じく1月21日まで延期
・1月19日 Asia Starが不堪航と判明、用船者は別の船での運送が可能か船主へ問い合わせるが、船主は運送をキャンセル
・同日より用船者はPumaで運送すべく、船主と運送料について交渉
・1月20日 Puma船主からの返答なし
・同日Asia Star船主はタンクに修繕を施し、用船者へ検査の実施を求めるが、返答なし
・1月21日 用船者から返答がなかったことから、船主は再び運送をキャンセルし、Asia Starは積荷なく出港
・その後Supplierのうち1社は契約を破棄し、他の2社は、用船者から期間延期のため既に多くの追加料金を受け取っていたことから、積荷を別の船により後日運送すべく、期間をさらに延期
・別の船であるChembulk Bacrcelonaで運送すべく、契約を結ぶ。
・結局、遅延の結果、用船者は積荷の購入者へ損害としてUS$823,800を支払わなければならなかった

<High Court判決>
・損害軽減義務について

Asia Starとの契約が終了となったのは1月19日であるため、1月20日より用船者の損害軽減義務は生じることとなる。このことより、用船者がPuma船主の提示した運賃を受けいれ、契約を結ばなかったことは合理的といえるかが争点となった。

Pumaの貨物積載量はAsia Starと比べ大きく、用船者は14,500mtの追加貨物を探すか、もしくは不積み運賃を支払わなければならなかった。また、荷主に対するさらなる期間延長費用の支払いを避けるため2004年1月25日までに船舶が積荷港に到着することが必要であった。さらに用船者は追加費用を軽減しようと努めた。Pumaを用船し貨物を追加したとしても、本船が揚荷港へ到着する前に追加した貨物の購入者が決まらなかった場合、その貨物の保管場所を見つけなければならないという問題が生ずる可能性があった。用船者は追加貨物の購入者を見つける準備もできていなかったし、貨物を速やかに転売することもできなかった。

これらのことから、第一審裁判所の損害軽減義務についての見解は誤っており、用船者がPuma船主の求める運賃に対し減額を求め、結果契約を結ばなかったことは合理的だといえる。損害軽減の原則は、損害を受けた当事者に、異常な費用の負担をさせたり、通常の業務方法を超える行為を求めたりするものではない。用船者が条件の良い運賃で貨物を運送すべく船主と交渉するのは通例とされており、本件においてPuma船主が提示したUS$27.50/mtの運賃は非常に高いものであった。

本件では、用船者は貨物の購入者からの巨額の損害賠償請求に直面し、またSupplier 1社との契約破棄により多額の利益を失った。用船者がPumaを用船し船主より求められた運賃を基に不積み運賃を支払った場合、損害額を軽減することが可能であったとはいえ、運賃の値下げ交渉などの行為を一概に不合理だとは言えないのである(カナダでの判例Costello対Calgary(City)[1995]AR Lexis5614のケースを考慮)。

・損害の査定について

用船契約者の訴えのうち上記(a)及び(b)の利益喪失は法律上“too remote”であり、船主が右利益喪失につき格別の知識や帰責事由を有しない限り、認められない。船主の運送契約不履行の場合、通常の損害額の算定は、市場運賃と現実の運賃の差額か、もしくは揚荷港における貨物の価値を基準とする。また、他船により貨物を運送した場合、用船者はそれに要した費用を請求する権利を得る(Kriti Rex [1996] 2 Lloyd’s Rep 171)。

本件で上記の通則を適用しない理由はない。従って、Supplierとの契約破棄により用船者に生じた損害、及び2004年2月中旬までに貨物を運送することが出来なかったことにより購入者へ支払わなければならなかった金額につき、用船者は、船主より回収する権利はない。しかしながら、第一審裁判所の見解の様にChembulk Barcelonaの船主に支払った額からAsia Starの船主へ支払った額を差し引いたものではなく、通常の損害額の算定方法に従い、到着予定日におけるトルコでの貨物の市場価格と、今回使用されなかった運賃及び保険料などの費用を差し引いた契約上の貨物の価格との差額が支払われることとなる。

<JPIコメント>
損害を被った場合、当事者である被害者は損害を軽減する義務を負う。その方法は合理的なものでなければならないが、その程度は通常の業務の方法を超える特別のものである必要はない。

以上

<日本船主責任相互保険組合>




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