中国-中国海商法の主な改正点について
2025年11月12日付Japan P&I News No.1334でご案内しました中国海商法の改正について、中国のコレスポンデンツHuatai Insurance Agency & Consultant Service Ltd.から、条文の新旧対照表を含む情報を入手しました。
本改正は2026年5月1日に施行され、1993年の海商法施行以来、初となる全面的な改正となります。その主要な目的は、海運業のデジタル化や環境規制への対応、および司法実務上の課題を解決することにあります。
本稿では組合員の皆さまに関連の深い「運送契約」、「責任制限」、「時効」に関する変更点について、岡部・山口法律事務所の中国弁護士、江明瀚氏による解説を下記のとおりご案内いたします。
記
運送関連の改正
1. 運送人の貨物管理義務の拡張
現行法における運送人の貨物管理義務(Care of cargo)の範囲は、貨物の「船積、移動、積載、運送、保管、配慮、および陸揚」と規定されていますが、これに「受取、引渡」の2項目が新たに追加されます(改正海商法第49条)。
運送人が免責を主張するためには、船舶の堪航性担保義務と貨物管理義務を立証する必要があります。貨物管理義務の拡大は、運送人がより広範な立証責任を負う可能性を示唆しています。特にコンテナ貨物の場合、運送人が免責を主張する機会を逸しないよう、貨物の受取時と引渡し時の関連記録を詳細に作成・保管することが強く推奨されます。
2. 海商法の適用拡大
現行法では、中国国内の沿海・海上での港間運送(フィーダー運送等)は海商法の適用対象外でした。改正後の海商法では、国内沿海・海上運送についても海商法の責任制限や免責事由が援用可能となります(改正海商法第43条)。ただし、国際海上運送で認められている火災および航海過失(操船、船舶管理上の過失)による免責については、改正後も国内沿海・海上運送には適用されない点には留意が必要です(改正海商法第52条)。なお、今回の海商法改正後においても、河川・湖沼等での運送については依然として海商法の規定は適用されません。
3. 貨物滅失時の賠償額算定基準の変更
現行法では、賠償額はCIF価格に基づいて算出すると規定されていますが、改正海商法では、民法典と統一され、原則として「引渡地での引渡時の市場価格」に基づいて算出されます。市場価格が確定できない場合にのみ、船積時のCIF価格に基づいて算出されることになります(改正海商法第56条)。
4. 貨物の引取人の不在時および引取遅延時の責任の明確化
揚地港において貨物を引き取る者がいない場合、船長は貨物を倉庫またはその他の適切な場所に陸揚げすることができます。これによって生じた費用およびリスクは荷送人が負担するものと規定されました。なお、この場合、運送人は速やかに荷送人に通知する必要があります。荷受人がすでに海上貨物輸送契約上の権利を行使(貨物の受領、賠償請求の提出など)したものの、貨物の引き取りを遅延し、または拒絶した場合には、これによって生じた費用およびリスクは荷受人が負担することとなります(改正海商法第93条)。
油濁汚染に関する改正
1. 船舶油濁損害責任に関する章の新設
中国は「油濁損害に関する民事責任条約に関する1992年議定書(CLC92)」と「燃料油による汚染損害についての民事責任条約(バンカー条約)」の締約国ですが、これまでこれらの条約は国内法化されておらず、その実施は専ら司法解釈に委ねられていました。今回の海商法改正では、船舶油濁損害責任に関する章が新たに設けられ、これら二つの国際条約が国内法化されました(改正海商法第十二章)。
海事責任制限に関する改正
1. 責任限度額の引き上げ
中国は「海事債権の責任の制限に関する条約(LLMC)」の締約国ではありませんが、現行法は76LLMCと同水準の責任限度額を定めています。今回の改正により、責任限度額は96LLMCと同一の水準に引き上げられ、船主の責任限度額が大幅に引き上げられます(改正海商法第219条)。
時効に関する改正
1. 非接触損害の請求権時効
船舶衝突に関する請求権の時効は2年とされます(衝突事故発生日から起算)。双方に過失のある衝突により、第三者に人身損害を与えた場合、双方の船舶は連帯して賠償責任を負います。一方の船舶が自己の過失割合を超える賠償額を支払った場合には、当該船舶はほかの過失船に対して求償権を有することとなりますが、この請求権の時効期間は1年(賠償金を支払った日から起算)です。
今回の改正により、船舶同士の衝突はないものの他船に生じたいわゆる非接触損害についても、船舶衝突の場合と同様の時効に関する規則が適用されることとなります(改正海商法第288条)。
2. 時効中断事由の修正
時効中断事由として、従来の「請求人による訴訟提起」「仲裁提起」および「被請求人による履行の同意」に加え、「請求人による履行の請求」が追加されました。民法の時効に関する規定を参考にすると、海商法上も書面やメール等による履行請求のみで時効が中断される可能性があります。今後、時効の抗弁を援用することが従来よりも困難になると予想されます。
準拠法に関する修正
1. 海商法の強制適用
改正海商法では、積地または揚地が中国国内にある国際海上貨物運送契約については、同法第四章(海上貨物運送契約)の規定が強制的に適用されます(改正海商法第295条)。これにより、船荷証券に他国の法律を準拠法とする条項があっても、中国の裁判所では海商法が優先に準拠されます。海商法に違反する約定は無効と解されます。
改正箇所の詳細については、添付の中国のコレスポンデンツHuatai Insurance Agency & Consultant Service Ltd.のサーキュラーをご参照ください。
本改正に関する詳細や実務上の対応に関するお問い合わせについては、当組合までお願いいたします。
以上