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米国の対イラン制裁に関する最新情報

2025/06/25 第25-005号

本特別回報では、米国財務省外国資産管理局(OFAC)の公表に基づいた、最新の米国の対イラン制裁に関する概要をご案内します。

 


I. OFACは、2025416日に制裁勧告「イラン石油制裁回避の発見と軽減に関する海運・海事関係者向けガイダンス(改訂勧告)」を公表しました。


本勧告は2019年に発行された勧告の改訂版であり、前版で導入されたレッドフラッグとリスク軽減策の拡大、2019年以降に実施された追加制裁に関する説明、およびOFACが特定した制裁回避パターンの考察がなされています。本勧告は、世界の海運・海事産業がイラン産原油・石油製品・石油化学製品の輸送に関連する制裁回避行為に伴うリスクを発見・軽減するのに資することを目的としています。OFACの措置はイランの石油販売に対抗することを目的としているため、イラン産石油の輸送により「海運会社、船舶所有者、管理会社、運航者、保険会社、港湾管理者、港湾サービス提供者、金融機関を含む海事産業に対して重大な制裁リスクが生じます。」


OFACの改訂勧告は、(1)イランによる制裁回避のための欺瞞的な取引慣行を説明し、(2)制裁リスクを特定し軽減する方法の助言を海事関係者に提供し、(3)米国制裁違反に伴う影響を説明しています。

 

主な調査結果とコンプライアンスに関する推奨事項

石油輸送における制裁回避慣行

改訂勧告で述べられているように、イランは、制裁を回避し、自国製品を割引価格で販売するために、以下のような欺瞞的な国際取引慣行に関与しています。

  • 「シャドーフリート」と呼ばれるタンカーおよびLPG輸送について同様の手続きを行うガス運搬船団を使用して石油の原産地を偽装すること。
  • 制裁対象のイランのタンカーが領海外で非制裁対象の船舶と船舶間(STS)移送を行い、イラン産石油を第三国の購入者に輸送すること(通常、原油の原産地や制裁対象タンカーの使用を隠蔽するために、1回の輸送につき3~5回のSTS移送が行われる)。
  • イラン関連組織が石油の原産地と目的地を隠蔽するために、船舶と貨物関連書類(船荷証券、原産地証明書、請求書、梱包明細書、適切な保険の証明書、最終寄港地のリストなど)を偽造すること。
  • イラン産石油を積載した船舶が意図的にAISトランスポンダーを無効にしたり、トランスポンダーデータを改ざんしたりして、船舶の位置や識別データを操作し、特定の海域における寄港やSTS移送を隠蔽すること。
  • イラン関連組織が「リスクが高く、透明性が低く、規制の甘い国・地域で」ペーパーカンパニーや特別目的会社を使用すること。
  • イラン国外の石油ブローカーがイラン産石油・石油製品を外国の最終消費者に販売・輸送することを促進すること。

制裁リスクの特定と軽減

制裁コンプライアンスプログラムの定期的な見直しと、強化されたデューデリジェンスの実施が推奨されます。特に組合員に関係することとして、改訂勧告は以下の事項を関係者に推奨しています。

  • 石油・石油製品の原産地を確認する。
  • 船舶が適切かつ合法的な保険に加入していることを確認する。
  • 船舶の所有権・航海・旗国履歴に関する追加書類を要求する。
  • 全ての船積書類を点検し、当該航海、関連する船舶、旗国情報、貨物の詳細、原産地および目的地の詳細が反映されていることを確認する。
  • 顧客、顧客の取引相手および関連する船舶について適切なデューデリジェンスを実施する。
  • 制裁回避のリスクが高いとされる国・地域を航行中にAISデータを操作し、またはAISが異常を示したと見受けられる船舶を監視・調査する。
  • 石油サプライチェーンにおける取引相手から、米国制裁規制に違反し、または米国人に違反させるような活動を行わない旨の保証・担保を得る。
  • 制裁対象船舶へのサービス提供または入港を拒否する。
  • デューデリジェンスのために、船舶情報を提供するさまざまなオープンソースデータベースや組織からの情報を利用する。

改訂勧告は、米国人が制裁対象者との取引およびイラン産石油・関連製品に関連する取引を行うことに対する一般的な禁止事項に加えて、非米国人が米国人を米国制裁に違反させること(共謀を含む)、および米国制裁の回避行為への関与を禁止していることを強調しています。また、イランの石油部門に関連して回避的な輸送慣行を行った非米国人に対して、OFACが執行措置を取った事例が挙げられています。


II. 米国国務省(DoS)は、2025521日に「イラン自由および拡散対抗法に基づくイランに関する米国調査結果」を発表しました。


2012年のイラン自由および拡散対抗法(IFCA)第1245条(プレス声明)に基づき、DoSは以下の認定を行いました。


  1. マグネシウムインゴット、タングステン銅、AA2024-T351アルミニウムシート・チューブ、過塩素酸ナトリウムを含む10つの戦略物質がイランの核・軍事・弾道ミサイル計画に関連して使用されていると特定しました。
  2. イランの建設部門がイスラム革命防衛隊に直接的または間接的に支配されていると特定しました。

その結果、以下の者に対して制裁が科されます。


  • 上記10つの戦略物質を(最終用途・最終使用者にかかわらず)イランにまたはイランから故意に販売、供給または輸送(直接・間接を問わない)する個人・事業体
  • 未加工・半製品金属、グラファイト、石炭および統合ソフトウェアがイランの建設部門に関連して使用される場合、これらをイランにまたはイランから故意に販売、供給または輸送(直接・間接を問わない)する個人・事業体

米国政府は、イラン政権の核開発・軍事野望を抑制するために、イラン政権に対して引き続き最大限の経済的圧力を加えると表明しています。


組合員におかれましては、適用される全ての制裁措置を遵守するため、上述の改訂勧告とDoS調査結果を確認することを推奨いたします。


また、制裁違反の取引には保険が適用されませんので、制裁リスクが高い取引を行う前に、関係者、貨物、船舶、その他のサービスプロバイダーについて、取引全体を通じて徹底的なデューデリジェンスを行い、その調査結果を記録に残すことを強く推奨いたします。


国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。