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EUと英国による最近の対ロシア制裁

2025/03/12 第24-023号

本特別回報では、EUと英国がロシアに対して最近発動した主な制裁措置をご案内します。


EUの対ロシア制裁-第16次パッケージ

2025年2月24日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻から3年を迎え、EUは第16次対ロシア制裁パッケージを採択しました。今回の制裁措置は、いくつかの規則および決定に記載されており、こちらからご覧いただけます。欧州委員会は、プレスリリースFAQを公表しています。


この制裁パッケージは、貿易、運輸、エネルギー、インフラおよび金融サービスを含むロシア経済の主要部門を対象としています。また、「シャドーフリート(影の船団)」や制裁回避に対する追加措置も含まれています。


最も重要な措置は、以下のとおりです。


制裁リスト掲載と制裁指定基準

EUは、48の個人と35の事業体をEU制裁リストに追加しました。これにより、これらの個人・事業体は資産が凍結され、同個人・事業体に対する資金や経済的資源の提供が禁止されます。また、ロシアの「影の船団」の一部である74隻の船舶も掲載されました(これにより、リスト掲載船の総数が153隻になりました)。これらの船舶は、ロシアの石油上限価格措置(プライスキャップ)を回避し、ロシアのエネルギー部門を支援したり、ロシアのために軍事装備を輸送したりしていた非EUタンカーであり、入港禁止の対象となるほか、EUの事業者がこれらの船舶にさまざまな海事サービスを提供すること、用船・運航・乗組員の配乗を行うこと、およびこれらの船舶と貨物の積み替えを行うことが禁止されます。規則では、安全、海上での人命救助、人道的または環境上の目的のための緊急寄港など、上記の入港禁止に対する除外リストも更新されています。


EUはまた、個人および事業体をEU制裁リストに指定するための以下の2つの新しい基準を導入しました。

(1)ロシアの「影の船団」の船舶を所有、支配、管理または運航する者

(2)ロシアの軍産複合体を支援する者、またはそこから利益を得る者


取引禁止

EU理事会規則2025/395(EU理事会規則833/2014の改正版)の新しい第5ae条の附属書XLVII Part Aに列挙されているロシアの港および閘門と直接的または間接的に取引を行うことが禁止されます。列挙されている港には、Ust-Luga、PrimorskおよびNovorossiysk港が「不規則でリスクの高い輸送慣行」に関与する船舶によるロシアの原油・石油製品の海上輸送に使用されていることから含まれています。また、ヴォルガ川のAstrakhan港とカスピ海のMakhachkala港も、ロシアのウクライナに対する戦争を支援する無人航空機、ミサイルおよび関連技術の移送に使用されていることから含まれています。


上記の取引禁止については、同規則第5ae条3項にさまざまな例外が規定されています。


(a)船舶が避難場所を求め支援を必要としている場合、海上安全のための緊急寄港、人命救助のため、人道目的のため、人間の健康・安全または環境に深刻かつ重大な影響を与える可能性のある事象に対する緊急的な防止・軽減策のため、または自然災害への対応の場合。


(b)ロシアからまたはロシアを経由して、天然ガス、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、パラジウムまたは鉄鉱石をEU、欧州経済領域加盟国、スイスまたは西バルカン諸国へ直接的または間接的に購入、輸入または輸送するために必ず必要な取引。


(c)第3m条または第3n条において禁止されていない場合に限り、ロシアからまたはロシアを経由して、石油(精製石油製品を含む)を直接的または間接的に購入、輸入または輸送するために必ず必要な取引。


(d)本規則に基づいて輸入、購入および輸送が許可されている医薬品、医療用品、農業用品および食料品(小麦と肥料を含む)の購入、輸入または輸送に必要な取引。


(e)附属書XXVに列挙されている海上輸送による原油および石油製品の購入、輸入または移送のための取引。ただし、当該商品が第三国を原産とし、ロシアで積載される、ロシアを出発するまたはロシアを通過するだけであり、かつ産地および所有者がロシア(人)ではない場合に限る。


(f)民生用原子力能力の確立、運営、保守、燃料供給、再処理および安全に必要な取引、ならびに民生用原子力施設の完成に必要な設計、建設および試運転の継続に必要な取引。


上記(c)の免除規定には、プライスキャップに準拠した原油・石油製品の輸送が含まれるものと思われます。


石炭の輸送に関する免除規定はありません。国際P&Iグループは、これが意図的な省略であるのかどうか、また追加のFAQを発行する予定があるかどうかについて、欧州委員会に説明を求めています。


EUの事業者は、自己がそこに法人を設立しているか、そこの法律に基づいて設立されているEU加盟国の管轄当局に、上記の規則に基づく取引および関連する免除について2週間以内に通知しなければなりません(EU理事会規則833/2014を改正するEU理事会規則2025/395の第5ae条5項)。加盟国は、この情報を受領後2週間以内に、他のEU加盟国および欧州委員会に報告する必要があります。


取引制限

ロシアからEUへの加工アルミニウム製品の輸入はすでに禁止されています。今回のパッケージには、ロシアに多大な収益をもたらすロシア産のアルミニウムの塊(CNコード7601)のEUへの輸入または輸送および関連する保険提供の禁止が含まれています(EU理事会規則833/2014を改正するEU理事会規則2025/395の第3i条3cgおよび3ch項)。この制限は、割当メカニズムを使用して段階的に実施されます。段階的実施期間中、2026年2月26日に禁止が完全に発効するまでの今後12か月の間は、最大275,000トンのロシアからのアルミニウムの塊の輸入が許可されます。2025年2月25日より前に締結されたアルミニウムの塊の契約(および契約の実行に必要な付随契約)については、2026年2月26日から2026年12月31日までの間も、最大50,000トンのEUへの輸入が認められます。ただし、英国制裁の下では、ロシアから第三国へのアルミニウムの輸,送が禁止されていることから(The Russia (Sanctions) (EU Exit) Regulations 2019の規則46IIおよび別表3BA)、組合員におかれましては、当該運送および当該取引に対するクラブの保険提供が許可されていることを確認することを強くお勧めします。


今回の制裁パッケージでは、ロシアによる主要技術へのアクセスを制限するため、二重用途物品の輸出制限が拡大されています。追加された品目は、(a)ロシアが化学兵器として使用しているクロルピクリンおよびその他の暴動鎮圧剤を製造するための化学的前駆体、(b)武器やビデオゲームコントローラーの製造に使用されるコンピューター数値制御(CNC)工作機械用のソフトウェア(ロシアは戦場でドローンを操作するために使用している)、および(c)軍事用途に使われることがあるクロム鉱石および化合物です。


また、ロシアの軍産複合体を直接支援している、または制裁回避を行っている53の事業者に対し輸出制限が課されています。二重用途物品および技術に対するより厳しい輸出規制の対象となるこれらの事業者は、ロシアだけでなく、中国(および香港)、インド、カザフスタン、シンガポール、トルコ、アラブ首長国連邦およびウズベキスタンを含む第三国にも拠点を置いています。


エネルギー

プライスキャップに準拠した貨物のEU港での一時保管は、完全に禁止されました。


すでに実施されているロシアのLNGプロジェクトの完了に必要な物品、技術およびサービスの提供の禁止は、Vostok Oilプロジェクトなど、ロシアの原油プロジェクトにも拡大されました。さらに、ソフトウェアに関する既存の禁止事項が拡大され、石油・ガス探査に関連するソフトウェアのロシアへの輸出が制限されることになりました。


輸送

EUの飛行禁止は、ロシア国内で国内線を運航する、またはロシアの航空会社に航空関連用品を供給する第三国の航空会社にも拡大されました。リストに掲載されている航空会社は、EUへの飛行が禁止されています。


銀行

新たに13のロシアの銀行がSWIFTシステムから排除されました。新しい制裁パッケージにより、EUは、プライスキャップの回避に関与し、制裁リストに掲載された「影の船団」の船舶との取引を促進する金融機関を制裁リストに掲載することができるようになりました。


ベラルーシおよびウクライナの非政府管理地域

この制裁パッケージには、ロシアに対する新たな貿易関連制裁に類似した、ベラルーシに対するさらなる制限措置が含まれています。また、EU制裁の回避を防止することを目的として、クリミア、セヴァストポリおよびウクライナの非政府管理地域(ドネツク、ヘルソン、ルハンスクおよびザポリージャ)に関する新たな制限措置が導入されています。


英国は2022年以来最大規模の対ロシア制裁パッケージを発表

2025年2月24日、ウクライナ侵攻から3年を迎えたタイミングで、英国は100件以上の新たな制裁を科しました。制裁対象は、以下のとおりです。


  • 中央アジア諸国、トルコ、タイ、インド、中国を含むさまざまな第三国に拠点を置く、ロシア軍向けの工作機械、電子機器および二重用途物品(武器システムで使用されるマイクロプロセッサを含む)の生産者およびサプライヤー

  • 北朝鮮の国防大臣およびロシアへの北朝鮮軍派遣に関与したその他の北朝鮮の将軍や高官

  • LLC Grant-Tradeおよびその所有者(高度なヨーロッパの技術をロシアに漏らし、違法な戦争を支援してきた)を含むロシアの13の企業・個人など

  • ロシア産石油を輸送する40隻の「影の船団」(これにより、英国が制裁対象とした石油タンカーの総数は133隻になる)。

ロシアが関与する取引は、重要な法的規制の対象となっています。組合員におかれましては、適用される制裁に違反する取引については、保険てん補を受けられないことにご留意ください。また、制裁リスクの高い取引を行う前に、関係者、貨物、船舶およびその他のサービス提供者に関し、取引全体の徹底的なデューディリジェンスを行い、その調査結果を記録に残すことをお勧めいたします。


国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。