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【改訂版】ロシア産原油・石油製品に係る上限価格措置(プライスキャップ制度)-IG共通回章

2023/02/14 第22-019-1号
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2023年2月5日、ロシアが石油の輸出から得る収入を抑制することを目的としたプライスキャップ制度が予定どおり拡大され、CNコード2710に該当するロシア産の石油製品についても上限価格が設定されました。

 

上限価格は2種類あります。

  • 原油より安値で取引される石油製品:1バレルあたり45米ドル
  • 原油より高値で取引される石油製品:1バレルあたり100米ドル

 

CNコード2710に該当する各製品が2種類の上限価格のいずれに分類されるかの詳細は、EU規則833/2014の附属書XXVIIIに記載されていますが、最近発行されたEUガイダンス文書でもご確認いただけます。

 

プライスキャップ制度の下、国際P&Iグループ(IG)に加盟するクラブは、石油製品貨物の1バレルあたりの価格が船積みから仕向港における通関まで上限価格以下である場合に限り、ロシア産石油製品のプライスキャップ連合以外の国への輸送に対するP&Iカバーを提供できるようになります。

 

2月5日の時点ですでにロシア産石油製品を積載していた船舶は、2023年4月1日までに航海を完了し貨物を積み下ろすのであれば、たとえ貨物がプライスキャップを超える価格で販売されていたとしても、合法的に航海を継続することができます。

 

2月5日以降にロシアの石油製品貨物を輸送しようとする船主または用船者は、保険期間中、本船に積まれている間にプライスキャップを超える価格で販売されたロシアの石油製品貨物を輸送しないという宣誓書をP&Iクラブに提出する必要があります。宣誓書のフォームについては、本特別回報の添付2をご参照ください。なお、宣誓書は、毎年、新保険年度の開始時に提出する必要があります。

 

また、2023年2月5日より前に開始され、2023年4月1日までに完了するロシア産石油製品の輸送に関わる取引に従事している船主および用船者は、別途証明を提出する必要があります。証明のフォームについては、本特別回報の添付1をご参照ください。

 

ロシア産の石油製品に適用されるプライスキャップ制度をふまえ、以下12月9日に発行した特別回報(オリジナル)の内容を赤字にて改訂いたします。

 

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要旨

  • EUG7、オーストラリア(「プライスキャップ連合」)は、世界市場へのロシア産原油の供給を維持すると同時に、ロシアが石油輸出から得る収益を削減することを目的として、2022125日から発効する法律とガイダンスを導入しました(「プライスキャップ制度」)。

 

  • プライスキャップ制度の下、国際P&Iグループ(IG)に加盟するクラブは、原油貨物の価格が船積みから仕向港における通関まで上限価格以下である場合に限り、ロシア産原油のプライスキャップ連合以外の国への輸送に対するP&Iカバーを提供できます。

 

  • ロシア産の石油製品については、202325日に別個のプライスキャップが導入されました。

 

  • 125日の時点ですでにロシア産原油を積載していた船舶は、2023119日までに航海を完了し貨物を積み下ろした場合に限り、たとえ貨物がプライスキャップを超える価格で販売されていたとしても、合法的に航海を継続することができました。

 

  • クラブ、船主、用船者は、それぞれ所有、用船、保険提供する船舶に積まれたロシアの原油・石油製品の貨物の価格がプライスキャップに沿ったものであることを確認することが求められます。このチェックは、関連する期間において価格がプライスキャップを超えないことを示す、契約相手による契約上の証明の形で行われることになります。

 

  • 125日以降にロシアの原油貨物を輸送しようとする、または25日以降にロシアの石油製品貨物を輸送しようとする船主・用船者は、保険期間中、本船に積まれている間にプライスキャップを超える価格で販売されたロシアの原油/石油製品貨物を輸送しないという証明をP&Iクラブに提出する必要があります。証明のフォームについては、本特別回報の添付2をご参照ください。

 

  • また、202325日より前に開始され、202341日までに完了するロシア産石油製品の輸送に関わる取引に従事している船主および用船者は、別途証明を提出する必要があります。証明のフォームについては、本特別回報の添付1をご参照ください。

 

  • 2022年12月5日以降に船積みされるロシア産原油と2023年2月5日以降に船積みされる石油製品の輸送に対するクラブの保険カバーは、組合員が適切な証明の提供を含むプライスキャップ制度の要件を完全に遵守することが条件となります。クラブは、運送される貨物が上限価格より高い価格で購入されたと疑うに足る合理的な根拠がある場合、カバーを取り止める必要があります。


はじめに

2014年のロシアによるクリミア併合以来、ロシアを対象とする様々な貿易制裁が実施されてきました。

 

今回の危機に先立つ数か月間、EU・G7などの国々は、ロシアが軍事侵攻を行った場合、前例のない制裁プログラムを実施することを警告していました。2022年2月24日の侵攻後、EU・英国・米国およびその他の同盟国は、ロシアの金融部門、航空・海運、防衛・航空宇宙・エネルギーなどの経済戦略部門、およびロシアのウクライナ侵攻を促進している個人を標的とする、大きな影響力を持つ協調的な制裁プログラムを発動しました。これらの制裁プログラムは、ロシア軍が国際的に承認されたウクライナの領土内に留まる限り、継続的に見直され、発展・実施されていくと予想されます。これらの措置が海運とP&I保険に与える影響については、これまでに発行されたIG共通回章(特別回報)をご参照ください。

 

ロシア原産の原油および石油製品に係る上限価格措置(プライスキャップ制度)

EU/G7は、ロシアの石油販売による収入を減少させるための制裁措置に重点を置いています。

 

こうした努力の結果、G7の財務大臣は、2022年9月2日にドイツのエルマウで開催されたG7とEUの会合において、設定された価格を超える金額で販売されるロシアの原油に対する海事サービスを禁止する「プライスキャップ制度」に合意しました。プライスキャップの目的は以下の3つです。

1. 世界市場へロシア産石油の供給を維持すること

2. 世界の石油価格の上昇を抑制すること

3. ロシアの原油および石油製品の輸出による収益を減少させること

 

プライスキャップ制度では、EU、G7およびオーストラリアといった同盟国の管轄下にある者は、上限価格以下で販売された場合を除き、ロシアの原油や石油製品を輸送したり、輸送を可能にするサービス(P&I保険を含む)を提供したりすることが禁止されます。EU、G7その他同盟国の管轄下にある事業者によるサービス提供の禁止は、EU/G7連合に属さない第三国による輸送や第三国への輸送にも適用され、その範囲において連合の域外へも効力を持つことになります。プライスキャップ制度は、原油(CNコード2709-00)については2022年12月5日に、石油製品(同2710)については2023年2月5日に開始されます。

 

2022年12月2日、EU/G7連合は、2022年12月5日以降のロシアの原油の上限価格を、G7連合による見直しを前提に、まずは1バレルあたり60米ドルに設定することを発表しました。

 

2023年2月4日、EU/G7連合は、2023年2月5日以降のロシアの石油製品の上限価格を、G7連合による見直しを前提に、まずは原油より安値で取引される石油製品について1バレルあたり45米ドル、原油より高値で取引される石油製品について1バレルあたり100米ドルに設定することを発表しました。

 

また先日、EU、英国および米国より、プライスキャップ制度を実施するための法律およびガイダンスが発表されました。本特別回報は、船主、用船者およびIGとその再保険者によるそのような取引への保険提供に対するこの制度の影響について説明するものです。

 

米国

IG加盟クラブの一つや再保険者、銀行を含む多くのサービス提供者が、米国領域内に存在するか、米国法の対象となる金融取引や契約を有しているため、米国の法律が関連してきます。

 

2022年11月21日に米国財務省は、大統領令14071号に基づく決定を出し、ロシア原産の原油の海上輸送に関連する以下のカテゴリーに属するサービスを禁止しました。
(i)貿易/商品仲介、(ii)融資、(iii)海運、(iv)保険(再保険・P&I保険を含む)、(v)旗国、(vi)通関 これらのサービスの提供の禁止は、2022年12月5日に発効しました。

 

2023年2月3日、米国財務省は大統領令14071号の1(a)(ii)項に従い、ロシア原産の石油製品の海上輸送に関連する特定のサービスを禁止する決定(2月5日発効)を出しました。同日、財務省は「ロシア連邦原産の原油および石油製品に対するプライスキャップの実施に関するOFACガイダンス」と題する文書も発表しました。

 

また同日、財務省/OFACは「船舶の緊急事態に関連し特定のサービスを許可するGeneral Licence No.57A」を発表しました。

 

プライスキャップの対象となる貨物の輸送を検討されている組合員におかれましては、これらの文書をご一読されることをお勧めします。

 

米国のプライスキャップ制度においては、米国人によるEU/G7連合以外の国へのロシア産原油・石油製品の輸送または輸送に対するサービスの提供は、ロシアの事業者が海上輸送のために原油・石油製品を販売した時点からロシア以外の管轄区域で通関後最初に陸上で販売されるまでの間、原油・石油製品の価格が上限価格以下である場合に限り合法となります。しかし、通関後、ロシア産の原油または石油製品がロシア国外で実質的に別の製品に変更されることなく水上に戻される(海上輸送を利用する)場合は、依然としてプライスキャップが適用されます。

 

船主およびサービス提供者は、この期間の原油・石油製品の価格を確認するために一定の措置を講じる必要があります。措置の内容は、売買契約の当事者との関係性の深さによって決まり、価格情報を入手できる立場にある者がより厳しい義務を負うことになります。EU/G7連合は、石油輸送に携わる当事者を3つの「階層(Tier)」に分類しています。Tier 1の定義に該当する者は、Tier 2やTier 3に該当する者に比べて、より広範なチェックを要求されます。Tier 3は貨物の価格情報に直接アクセスできない者であり、P&Iクラブや船主を含みます。用船者も Tier 3とみなされる可能性がありますが、売買契約への近接性や売買契約に関する認識の程度によっては、Tier 2あるいは Tier 1にもなり得ます。

 

プライスキャップ制度に関与する当事者は、契約相手より入手する、貨物に支払われた価格がプライスキャップを遵守しているという書面または証拠(「Attestation」)を含む取引の記録を保管する義務を負います。これらの記録は、5年間保管されなければなりません。

 

上述のOFACガイダンスは、適用される記録保管・証明のプロセスを誠実に遵守する米国のサービス提供者のための、OFACによる執行からのいわゆる「セーフハーバー」(一定の要件を満たした場合には、規則違反としないという取扱い)に言及しています。

 

米国人は、大統領令14701号に基づく決定に違反する取引への従事および/または決定をかいくぐる行為を行ってはならず、そのような決定に対する違反や回避活動についてはOFACへ報告しなければなりません。

 

英国

P&Iクラブを含む多くの海事サービス提供者は、英国の領土内にあるか、英国法の適用を受ける金融取引や契約を行っているため、英国の法律との関連性を持っています。

 

2022年11月1日に英国政府は「ロシア(制裁)(EU離脱)(修正)(No.16)規則2022」を公表し、英国の法律が2022年6月4日に公表されたEU第6次制裁パッケージとおおむね同じになるよう調整を行いました。当該規則では、以下の提供が禁止されています。

 

  • ロシアの原油および石油製品の第三国への海上輸送、および
  • そのような輸送のための補助的な海事サービスおよび金融サービス

 

2022年12月4日に英国財務省は「英国 海事サービスの禁止および石油プライスキャップに関するガイダンス」を発表しました。当該ガイダンスは、石油製品に関するプライスキャップの開始を受けて改訂されています。

 

また、英国は同日にプライスキャップ制度を実施するためのGeneral Licenceを発表しました。当該ライセンスは、石油製品に関するプライスキャップの開始を受けて2023年2月3日に改訂されています。さらに2022年12月4日には、制度開始時にすでにロシアの石油を積んでいた船舶への経過措置に関する事業縮小のためのGeneral Licenceを発表しました。また、2023年2月3日には、石油製品に関する事業縮小のための追加のGeneral Licenceが発表されています。

 

英国のプライスキャップ制度の効果は、米国の制度によく似ていますが、いくつか重要な相違点があります。General Licenceの適用範囲に入るためには、関連貨物の価格は「船上での貨物の受け取りから、貨物が引き渡され第三国の税関を通過する時点、または非特恵原産地規則に沿って実質的に別の商品に変更される時点までの間」上限価格以下を維持する必要があります。米国のガイダンスと同様に、英国のガイダンスは、「...原油または石油製品が第三国の税関を通過した後、実質的に加工されずに海上輸送によって再び貿易に戻る場合、プライスキャップは依然として適用される」と規定しています。

 

米国のガイダンスと同様、英国は制度に参加する当事者に対し、貨物がプライスキャップに適合しているという証拠を入手するよう求めており、当事者の義務の程度は、売買契約との関係の深さによって決まります。米国と同様にTier構造を採用し、各Tierの説明もほぼ同じです。また、参加事業者はプライスキャップ取引に関する記録を4年間保管することが義務付けられています。

 

米国ガイダンスにある「セーフハーバー」の概念への言及は、英国ガイダンスにはありません。その代わり、英国の管轄下にある当事者(居住地に関係なく英国人を含む)は、プライスキャップが遵守されていない場合に執行措置を回避するためには、OFSI(金融制裁執行局)に対し「...証明プロセスの要件を...OFSIが満足するようタイムリーかつ完全に満たし、適切なデューディリジェンスを尽くした...」ことを証明しなければなりません。

 

現在、英国の企業または国民による、ロシア産の原油・石油製品をロシアから第三国、または第三国から第三国へ船舶で輸送する世界中の者に対する金融サービス、資金や仲介サービスの提供は、当該貨物が制度開始(原油は2022年12月5日、石油製品は2023年2月5日)後に上限価格を超えて購入されていた場合、刑事上の犯罪となります。OFSIが取り得る執行措置の範囲には、厳格責任に基づいて科される罰金も含まれ、その額はプライスキャップ制度の違反額の50%にも達する可能性があります。

 

また英国は、プライスキャップ制度に参加する当事者に多くの報告義務を課しています。例えば、英国のサービス提供者は、プライスキャップの禁止事項に違反した場合にはOFSIに報告し、「英国の制裁措置の違反が疑われる場合、合理的に実行可能な限り速やかにそのサービスを取り止めること」が義務付けられています。

 

EU

英国と同様に、EUは金融および技術的海事サービス産業の中心地となっています。

 

2022年6月4日に発表された第6次制裁パッケージ(EU規則833/2014の修正)は、ロシア原産の石油を第三国に運ぶ船舶への海事サービスの提供を、原油については2022年12月5日以降、石油製品については2023年2月5日以降禁止しました。規則833/2014とそれに付随する統合FAQ(よくある質問)は、9月にEU/G7連合が発表したプライスキャップ制度の基礎を形成するものとなりました。

 

2022年10月6日にEUは8次制裁パッケージを発表し、上限価格以下で販売された貨物の輸送および関連する海事サービスに対する例外措置を盛り込みました。

 

2022年12月3日には、欧州理事会がプライスキャップを発効させる決定を発表しました。

 

また欧州委員会は2022年12月3日にプライスキャップ制度の解釈に関するFAQとガイダンスを発表しました。

 

2023年2月4日、EUは、CNコード2710に該当するロシア原産の石油製品のプライスキャップに関する決定を公表しました。また同日、石油製品のプライスキャップ制度の運用に関する改訂版FAQとガイダンスも発表されました。

 

EUのプライスキャップ制度は、大部分において米国・英国の制度と酷似していますが、EUの既存の法律を反映したいくつかの重要な違いがあります。

 

英国や米国の規則と同様に、EUの制度でも、石油が目的地の第三国で通関した後、「...非特恵原産地規則に沿って実質的に別の商品に変換されることなく(すなわち、精製されることなく)、再び海上輸送されることになった場合...プライスキャップは依然として適用され」ます。

 

ここでも、当事者は貨物の価格について適切なAttestationを取得することが期待されており、その内容はどのTierに該当するかによって異なります。各Tierの定義は、英国や米国で採用されているものと同じで、船主とP&IクラブはTier 3に分類されています。FAQには「価格情報に直接アクセスできないEU事業者が、適切なデューディリジェンスを尽くした上で、合理的にAttestationを信頼した場合、仮にそのAttestationが改ざんされていたり、違法な者によって提供されていたとしても、EU事業者が誠実に行動していれば、プライスキャップに違反しているとはみなされないだろう」と書かれています。

 

事業者は、プライスキャップ取引の記録を5年間保管することを義務付けられています。

 

EU規則833/2014の第3n条第7項が、上限価格を超える価格のロシア産の原油や石油製品を輸送していることが判明した船舶に対する金融・技術サービスの提供を永続的に禁止すると読めることから、この規定がどのように解釈されるかについて懸念がありました。同条項の解釈については、FAQ 32~34に記載されており、非EU船舶に関しては、そのような禁止はプライスキャップを故意に違反した場合に限られ、その後の航海への海事・技術サービスの提供の禁止は、ロシアの貨物についてのみ適用され、90日間に及ぶ旨が説明されています。他方、第3n条第7項に違反したEUの船舶は、関連する加盟国の法律に従って処分されることになります。

 

経過措置

米国・英国・EUの立法機関は、いずれもプライスキャップ制度が開始した時点ですでにロシア産原油を輸送していた船舶に対し、2023年1月19日までの45日間の事業縮小期間を設けることを定めました。事業縮小期間の開始と終了の正確なタイミングは、3つの管轄(米国・英国・EU)で若干異なります。

 

英国の法律では、P&Iクラブは、2022年12月5日12:01(GMT)より前にロシア産原油を積んだ船主または用船者が、貨物が2022年12月5日05:01(同)より前に完全に積み込まれたこと、2023年1月19日05:01(GMT)より前に荷揚げされたことが確認できるData Attestationをクラブに提出した場合に限り、保険カバーを提供できます。

 

クラブが引き続きカバーを提供できるようにするためには、ロシアの原油を輸送している船主や用船者は、本特別回報のAttestationフォーム(添付1)に記入しクラブへ送付することで、この要件を満たす必要がありました。

 

米国、英国、EUの立法機関は、いずれもプライスキャップ制度が開始された時点でロシアの石油製品を積載していた船舶について、2023年4月1日までの事業縮小期間を認めています。

 

英国の法律では、P&Iクラブは、2023年2月5日12:01(GMT)より前にロシア産石油製品を積んだ船主または用船者が、貨物が2023年2月5日05:01(同)より前に完全に積み込まれたこと、2023年4月1日05:01(GMT)より前に荷揚げされる予定であることが確認できるData Attestationをクラブに提出した場合に限り、保険カバーを提供できることになっています。

 

クラブが引き続きカバーを提供できるようにするためには、現在ロシアの石油製品を輸送している船主や用船者は、本特別回報のAttestationフォーム(添付1)に記入し可能な限り速やかにクラブへ送付することで、この要件を満たす必要があります。

 

求められる証明(Attestation)の形式

船主は、3つの管轄(米国・英国・EU)すべてにおいて、Tier 3とみなされます。そのため、船主は、契約の相手方(通常、用船者)から、相手方がプライスキャップを超える原油または石油製品を購入しないという契約上の確約を得なければなりません。そのようなAttestationは、単独の文書である場合もあれば、広範な契約に含まれる場合もあります。

 

3つの管轄は、個別の契約に適合させることができるAttestationの文案を提供しています。

 

用船者は、売買契約における役割に応じて、Tier 3、場合によってはTier 2となる可能性があります。例外的に、特に売買契約の当事者である場合や、売買契約から直接利益を得る場合には、Tier1にもなり得ます。その場合、Attestationの義務はより厳しくなります。Tier 2の場合、契約に基づく価格の詳細を入手し、要求に応じて他の当事者が利用できるようにすることが要求されます。価格情報が入手できない場合、プライスキャップを超える石油を購入しないという確約を入手する必要があります。Tier 1の取引先が英国の管轄下にある場合を含め、追加の報告義務が適用されるケースもあります。

 

記録の保管

3つ管轄は、いずれもプライスキャップ制度に参加する当事者に記録の保管を義務付けています。英国の場合は4年間、米国とEUの場合は5年間、記録を保管しなければなりません。記録の保管の程度は、プライスキャップ取引における当事者の立場、すなわちTier 1、2、3のいずれに該当するかによって決まります。

 

クラブの保険カバー

IG加盟クラブは、自身の規則に従って、ロシアの原油・石油製品の合法的な輸送に従事する船舶に保険カバーを提供することができます。組合員(船主または用船者)がそのような合法的な輸送に従事するためには、すべてのプライスキャップ制度の要件を完全に遵守し、適切なデューディリジェンスを尽くし、Attestationプロセスを忠実に守らなければなりません。

 

ロシア産の原油・石油製品を輸送する組合員は、3つの管轄の要件に留意し、P&Iクラブの要請に応じて、航海を行う際に依拠するAttestationのコピーをP&Iクラブに提供する準備をする必要があります。

 

クラブは、プライスキャップ制度を遵守するために、船主または用船者に提供されたプライスキャップのAttestationが虚偽であると疑われる合理的な理由がある場合、または航海開始後に貨物がプライスキャップより高額で販売された場合、保険カバーを取り止めることが求められます。

 

あらゆる状況において、クラブの保険カバーはプライスキャップ制度の厳格な遵守が条件となります。英国と米国の法律の適用を受けるクラブは、プライスキャップ制度の違反が疑われる場合、それぞれの規制当局に通知する義務も負っています。

 

組合員におかれましては、2022年12月5日05:01(GMT)から、プライスキャップの対象となるロシアの原油に対するP&Iカバーは、供給された(される)または引き渡された(される)ロシアの原油の単価が上限価格以下であることが条件となることにご注意ください。

 

また、2023年2月5日05:01(GMT)から、プライスキャップの対象となるロシアの石油製品に対するP&Iカバーは、供給された(される)または引き渡された(される)ロシアの石油製品の単価が上限価格以下であることが条件となることにご注意ください。

 

プライスキャップ制度に従ってロシアの原油または石油製品を輸送する予定の組合員(船主および用船者)は、本特別回報に添付されたAttestationフォーム(添付2)に記入のうえ、可能な限り速やかにクラブへご提出ください。

 

ロシア産の燃料油

ロシア産の燃料油をロシアまたはその他の地域で使用することを考えている船主および用船者は、その合法性について確認することが推奨されます。船舶の燃料油を構成する典型的な石油製品は、プライスキャップ制度の対象となるCNコード2710に該当しますが、EUや英国の規則・ガイダンスは、燃料油の扱いについて完全に明確にしていません。IGは現在、追ってさらなるガイダンスを提供できるように、関連する規制当局に説明を求めています。

 

緊急事態への保険カバー

プライスキャップに関する法律は、制裁が海難事故への対応を妨げることがないようにする必要性を認識しているようにみえます。 英国の法律には、人間の健康や安全、インフラ、環境に対する危害の防止・軽減を支援するため海難事故に対処する人の活動に対する例外規定があります。おそらく範囲は狭いものの、同様の規定はEUの法律にもあり、米国のGeneral Licence No.57は、乗組員の健康や安全、環境保護に関する船舶の緊急事態への対処に通常付随し必要となる海事サービス取引を許可しています。

 

IG加盟クラブは、CLC・バンカー・ナイロビ条約に従って発行されたブルーカードに基づく、海難事故における第三者の被害者(沿岸国を含む)への直接的な義務に留意しており、クラブが海難事故による損害の防止軽減に関連する第三者からの請求に対応する必要性があるとの認識が広まることを歓迎します。

 

しかしながら、組合員は、クラブがブルーカードに基づく義務を一旦負い、違法な運送を伴う航海に関係したとの理由でブルーカード上の義務が免除された場合、クラブはその費用を組合員から回収する権利を持つことにご留意ください。

 

リスク

EU/G7連合(オーストラリアを含む)が進めているプライスキャップ制度は、独自のコンプライアンス上の課題を生じさせています。

 

ロシアはプライスキャップ制度に反対しており、虚偽の書類を作成したり、複数回のSTSを利用して原産地の異なる貨物を混ぜたり、あるいは原産地を不明瞭にしたりすることで、制裁を免れようとするリスクがあります。

 

船主や用船者は、適切なデューディリジェンスを尽くし、表面上有効なAttestationを入手すれば、いかなる法律にも違反することはありませんが、保険者、再保険者、旗国、銀行などの海事サービスや技術支援の提供者は、プライスキャップが遵守されていないと疑うに足る合理的な理由がある場合、そのサービスを取り止める義務を負います。

 

船積み後に違反が確認された場合、当局が貨物の最良の処分方法を決定するまでの間、長期にわたって船舶が無保険かつ通常の銀行サービスを利用できない状態に置かれるおそれがあります。

 

IGの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。