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ニュース

厨房から健康文化の醸成へ―「船員の食事と健康改善トレーニング」の舞台裏

2026/06/05

組合員各位


船員のウェルビーイング向上を目指す、実践的プログラムが始動

 

当組合は、2026年5月、フィリピン・マニラ近郊のカビテ州にて、司厨部員を対象とした「船員の食事と健康改善トレーニング」を初めて開催しました。

 

本トレーニングは、船員のウェルビーイング向上を目的とした、組合員向けの新サービスです 。ケータリングのプロフェッショナルであり、船員向けトレーニング施設を持つ富士貿易株式会社(以下「富士貿易」)とタッグを組み、座学と調理実習を組み合わせた実践的なプログラムを実施しました 。

 

5月13日・14日、および20日・21日の2回にわたり実施されたこのプログラムは、単にレシピを学ぶ場ではありません 。船上における厳しい健康リスクを「数値」として直視し、厨房から船員とその家族の未来を守る「意識改革」の場として、熱気あふれる一体感の中で行われました。

 

 

膨大なデータが突きつける現実:下船理由の70%が「病気」

 

トレーニングの冒頭では、当組合損害調査第2部・根本尚子がプレゼンテーションを行いました。

 

当組合が過去約10年間に蓄積してきた膨大なクレームデータをもとに、「下船理由の70%が病気である」という現実や、「特にフィリピン人に多い糖尿病や併発する障害リスクの深刻さ(世界第4位の規模で拡大中)」を数値化して提示。これらを目にした会場の司厨部員たちには、「自分たちが毎日作る食事こそ、仲間のウェルビーイング、そして家族の生活を左右する」という強い当事者意識が芽生え、その後のトレーニングに向けた土台となりました。

 

 

船上のリアルな課題にフォーカスしたカリキュラム

 

続いて、富士貿易の経験豊富なトレーナーや栄養士による講義と調理実習が行われました。

 

「栄養学」や「BMIの計算方法」といった基礎知識にとどまらず、長期航海における食材手配の難しさや、船員特有の変則的な生活リズムなど、船上ならではの課題に焦点を当てた具体的な講義と活発な意見交換が展開されました。

 

 

伝統料理をヘルシーにアップデートする調理実習

 

調理実習では、伝統的なフィリピン料理をベースに、塩分を約65%もカットしたヘルシーメニューやスナックに挑戦しました 。市販の調味料に頼らず、食材本来の新鮮な味を生かすことで、「減塩=物足りない」という常識を覆す豊かな風味を引き出しています 。

 

栄養士監修メニュー例:エビのシニガン

血圧管理をサポートするため、塩分の多い市販の調味料を最小限に。トマトとタマリンド本来の酸味を生かした、減塩ながらも奥行きのある豊かな風味を実現。


 

 

 


単なる「学び直し」を超えたフィードバック

 

今回のトレーニングが司厨部員たちにとって何よりも特別な経験となったのは、富士貿易のトレーナー陣が、自らも楽しみながら圧倒的な情熱を持って参加者と向き合ったからでした。

 

調理実習後、栄養士は司厨部員一人ひとりが作った料理に対し、「どこが良かったか」「どうすればさらに向上させられるか」を具体的にフィードバックしました。

長いキャリアを持つベテランの司厨部員たちにとっても、自らの仕事を見直し、新たな気づきを得る機会となり、おいしさの追求だけでなく「健康を守る誇り」に気づく極めて貴重な場となりました。

 


トレーニングに参加した司厨部員からの感想

 

はるばるイロイロ州から駆けつけてくれた司厨長をはじめ、参加した司厨部員からは、熱量に満ちた言葉が寄せられました。

  • 「栄養バランスや塩分の摂りすぎの健康への影響、生活習慣病の予防について学ぶことができました」
  • 「健康的な食事のレシピをもっと学びたいと思いました。船員仲間にもトレーニングで学んだことを共有し、健康的な食事を摂るよう勧めたいです」
  • 「調理実習や準備を通じて、船上の全ての船員のウェルビーイングのために、健康意識がいかに重要であるかを実感しました」
  • 「自分の健康をあまり気にしない人にとって、この研修は本当に重要です。そうした人々にとって、目からうろこが落ちるような内容になるでしょう」
  • 「講師陣は知識が豊富で、トレーニング施設は最新の設備が整っているので、この研修を同僚らにも勧めたいです」
  • 「船の上で司厨部員として何よりうれしいのは、仲間からの『今日の食事、ありがとう!』という、たった一言。これからは、おいしくて、しかも彼らが長生きできる料理でその言葉をもらいたい」

 


富士貿易(フィリピン)講師陣のコメント

 

座学講師:Ms. Marielle Buquid, Manager

「富士貿易ではこれまで数多くのケータリングトレーニングを実施してきましたが、毎回コンセプトを練り上げ、資料をカスタマイズして臨む非常にChallenging(挑戦的)な試みです。しかし、このタフな取り組みこそが我々自身の自信や楽しみにつながり、現場からの生の声を聴く非常に有意義な場となっています。」

 

調理実習講師:Mr. Paul Alteo A. Bagabaldo, Rnd, MSc, Nutritionist Consultant

「20年以上の乗船経験を持つ彼らに技術を教えることに困難さは全くありません。なぜなら、彼らはすでに非常にプロフェッショナルな司厨部員であり、教えたことを即座に実践できる高い能力を持っているからです。しかし、我々トレーナーも含め、『健康』という明確な視点を持って調理に向き合ったことで、日々の食事が仲間の病気や命にいかに直結しているかという重大な責任を、改めて全員が強く意識するきっかけになったと感じています」

 


専門家の視点:船内環境の改善が、長期的なキャリア形成を支える

 

マニラのコレスポンデンツDel Rosario Pandiphil Inc.のMedical Director、Edgardo Antonio A. Del Rosario氏は、本トレーニングについて以下のようにコメントしています。

 

「多くの疾患の発症や進行には、しばしば複数の要因が関与しています。高血圧、脳血管疾患、心血管疾患、糖尿病などの生活習慣病は、食事、不規則な勤務時間、睡眠不足、疲労、そしてストレスといった要因から多大な影響を受けます。これは、時に8か月以上に及ぶこともある船上や洋上での長期滞在を考慮すると、船員にとって特に重要な課題です。


この点において、一食あたりの栄養成分表示などの取り組みを通じて、主に栄養学に基づいた食事の選択肢を提供し、船員自身が納得して食事を選べる環境を整えることは、乗船中のみならず、休暇期間中も含めた長期的な健康維持に大きく貢献する可能性があります。


日本船主責任相互保険組合が提供するこのようなトレーニングの取り組みは、船内環境の改善に寄与するものであると考えます。ひいては、重大な疾患の発症リスクを低減し、船員の方々の長期的なキャリア形成を支えることにつながるでしょう」

 


今後の展望:船内の「健康文化」を支え続けるパートナーとして

 

船員にとって、食事は長期にわたる洋上生活における最大の娯楽です 。だからこそ、個々の嗜好や文化とつながりが深い食習慣を変えることは容易ではありません 。しかし、今回のトレーナーと司厨部員たちが作り上げた「自らも楽しみ、高め合う一体感」は、何ものにも代えがたい意識改善の原動力となり得ます。


ギャレー(厨房)を預かる司厨部員が「健康を支えるギャレーのドクター」としての自覚を持ち、船上で誰もが自然と健康になれる文化を創り出すこと――。当組合はその未来を支えるパートナーとして、卓越したノウハウと熱い情熱を持つ富士貿易と手を携え、これからも活動を続けてまいります。