トップ > P&I 特別回報

JPIメールマガジン

ホームページでご提供している海事関連条約、法律等の動き、国内外のトピックス、最新判例などの情報をメールマガジンとしてお届けします!

P&I 特別回報

 
P&I 特別回報 >> 記事詳細

2009/12/09

第09-011号 環境損害の防止及び修復に関する環境責任についての2004年4月21日付欧州議会及び理事会指令2004/35/CE

| by:sysadmin
第09-011号
2009年12月09日
外航組合員宛

環境損害の防止及び修復に関する環境責任についての
2004年4月21日付欧州議会及び理事会指令2004/35/CE



欧州での環境損害の防止及び修復に関する環境責任についての指令(以下、ELD指令)の現状並びにその内容に関し、以下の通りご案内申し上げます。

背景

ELD指令は、2004年4月30日に発効しました。ELD指令は、EU加盟国に対し、2007年4月30日までに同指令を国内法化し、施行するよう求めていますが、多くの加盟国は最近になってようやく施行したばかりで、まだ同指令にそった必要な法整備を終えていない国もあります。2009年7月1日現在、以下の加盟国が、欧州委員会に国内法化したことを通知しています。

イタリア、リトアニア、ラトビア、ハンガリー、ドイツ、スロバキア、ルーマニア、スウェーデン、スペイン、エストニア、キプロス、マルタ、ブルガリア、オランダ、ポーランド、チェコ、ポルトガル、デンマーク、ベルギー、アイルランド、フランス、ルクセンブルク

英国に関しては、イングランドとウェールズについては国内法化を終えてその旨を欧州委員会に通知していますが、スコットランドと北アイルランドでは国内法化の採択を待っている状態です。

本回報は、ELD指令の主要条項をかいつまんでお知らせするものですが、他の全てのEU指令と同様に、各国は、指令の主旨を国内法化するにあたって、ある程度柔軟な対応をとる可能性があることをご承知おき下さい。ELD指令は、加盟国が環境損害の防止と修復措置に関し、同指令より厳しい規制を制定することを阻むものではありません。

ELD指令の基本原則は、自己の行為により環境損害または環境損害となりうる差し迫った危険を引き起こしたオペレーター(船主を含む)に、金銭的な責任を負わせるというものです。ELD指令の目的は、オペレーターが金銭的責任に晒されることを軽減するため、環境損害を最小限に抑えるような対策、行動を取るよう促すことです。

ELD指令において環境損害とは、“天然記念物や自然の生息地環境への損害、あるいは学術研究上重要地域における損害”、“水質汚染”及び“土壌汚染”と定義されています。同指令はオペレーターに対し、内水運送または海上運送により生じる危険物1や汚染物2の輸送、国境を越えての廃棄物の輸送3等を含んだ“特定の事業活動”により生じる環境損害の予防及び修復の費用につき厳格責任を負わせています。

ELD指令は、上述の活動以外の事業活動に起因した天然記念物や自然の生息地環境に関する損害もしくはその差し迫った危険に対する過失責任についても規定しています。ELD指令は人的損害や私有財産への損害または “経済的損失”に対しては、適用されません。

ELD指令の下、オペレーターは以下の義務を負います。

1危険物とは、国際海上危険物規則(IMDGCode)、危険化学薬品の撒積運送のための船舶構造及び設備に関する国際規則(IBC Code)の17章、液化ガスの撒積運送のための船舶構造及び設備に関する国際規則(IGC Code)の19章に明記される物質をいう。
2汚染物とは、MARPOL 73/78条約附属書Iに規定されている石油、IIに規定されている有害液体物質、IIIに規定されている有害物質のことを言う。
3国境を越えての廃棄物の輸送は、認可が必要であり、EU圏内及びEU圏との廃棄物の輸送は、Council Regulation 259/93(廃棄物輸送規則)により禁止されている。

環境損害がまだ発生していないが、同損害が発生する差し迫った危険がある場合、必要な防止策を講じること。
防止策を講じたにも係わらず、環境損害が発生する差し迫った危険が解消しない場合は、管轄当局にその状況を通報すること。
環境損害が発生した場合には、遅滞無く管轄当局にその旨通知し、損害の拡大を食い止めるあらゆる手段を講ずるとともに、必要な修復措置をとること。

既存の責任/補償条約との関係

EU加盟国において、責任及び補償に関する以下の国際条約のいずれかが適用される事故から生じた環境損害や同損害が発生する差し迫った危険にはELD指令は適用されず、当該国際条約が適用されます。

油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約の1992年の議定書(92 CLC条約)
油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約の1992年の議定書(92 基金条約)
燃料油による汚染被害についての民事責任に関する国際条約(バンカー条約)
1996年の危険物質及び有害物質の船舶による海上輸送に関連する損害に対する責任並びに損害賠償及び補償に関する国際条約(HNS条約)

持続性油の海上輸送における油濁損害の責任と補償を定めるCLC条約及び基金条約は、EU加盟のすべての沿岸国が批准しています。燃料油による油濁損害を補償するバンカー条約を批准しているのは17カ国のみであり(2009年11月末時点)、HNS条約は国際的には発効に至っていません。EU加盟国の水域で有害危険物質の輸送から生じる、またはバンカー条約が発効していない加盟国での燃料油の流出から生じる環境損害や同損害が発生する差し迫った危険に対する責任および補償については、ELD指令が適用されます。

ELD指令では、船主が1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(76LLMC)あるいはその1996年の議定書(96LLMC)を摂取した国内法に基づく責任制限の権利を引き続き有することが規定されています。イタリア、ポルトガル及びスロバキアを除いて、EU加盟のその他の全ての沿岸国が76LLMCまたは96LLMCを批准しています。イタリア、ポルトガル、スロバキアでは、ELD指令に規定された損害の防止、修復措置の費用は、責任制限の対象とならず、無限責任を課せられる可能性があります。

修復措置について

ELD指令に定められた範囲内で環境損害が発生した場合、オペレーターは、同指令に従い修復措置を決定し、当局に報告し承認を得なければなりません。環境損害を修復する最も適切な手段を決定するための共通枠組みは、同指令に概略が示されています。

修復措置を提案するのはオペレーターですが、オペレーターがそれを行わない場合、管轄当局が修復措置を決定します。管轄当局は、オペレーターに対し修復措置を講じるよう求めることも、あるいは当局自ら実施することも可能です。

修復措置は、利用可能な最善の方法を用いて評価し、ELD指令に含まれる評価基準に基づいていなければなりません。これらの修復措置には、公衆衛生や安全についての各選択肢の効果、その選択肢を実施した場合の費用、成功の可能性、どの程度将来の損傷を防ぐことができるかの検討が含まれます。こうして決定された修復措置が適切であり、かつ天然資源4が損害の発生する以前と同等の状態に回復されるのに十分であると当局により認められる必要があります。修復措置は、主たる措置、補足措置、補償措置から構成されることとなります。

4天然資源とは、保護種、自然生息地、水資源、土壌のこと。

主たる措置とは、損害を受けた天然資源や損なわれた機能を、損害が発生する以前の状態に戻す措置のことです。補足措置とは、主たる修復措置で被害を受けた天然資源や機能を完全に元の状態に戻すことができなかった場合に、補足する措置のことです。補足措置は、損害が発生した場所あるいは代替地で実施することができますが、代替地には損害発生地との地理的関連性が求められることとなります。

補償措置とは、損害発生日から主たる修復措置や補足措置の効果が現れるまでの間の暫定的な損失を補う措置のことです。

これらの補償の措置は一般市民への金銭的賠償は含んでおらず、ELD指令における環境損害の修復あるいは回復の解釈は、IMOにより制定された国際的な責任・補償制度下での環境損害に対する補償範囲と異なります。

本指令では、損害を引き起した一人あるいは複数の “特定可能な汚染者” が存在し、“具体的かつ定量化が可能な損害”が発生し、さらに損害と汚染者との間に因果関係をはっきり認識できるとの前提にたっています。

適用除外

オペレーターは、以下の事項を立証すれば、ELD指令の下での責任から免除されます。
・安全な手段を適切に施していたにも係わらず、第三者によって引き起され発生してしまった損害
・公的機関からの強制的命令、指示に従ったことによって生じた損害

また、EU加盟国は、オペレーターがオペレーター自身に責任や過失がなく、環境損害が次の事由によって引き起されたことを立証できる場合は、修復費用をオペレーターに負担させないとすることができます。

オペレーターの一連の活動過程での製品の使用方法で、事故当時の科学技術の知識の水準からはこのような損害が発生するとは考えられなかった場合
適用される国内法と規則の下で、完全に許される状況での排出であった場合

さらに、ELD指令は、武力紛争、戦争行為、内戦や暴動、あるいは、異常かつ不可避で抵抗のしようのない自然現象によって発生した環境損害や同損害が発生する差し迫った危険は適用除外としています。

ELD指令には、強制保険制度がありません。しかし、加盟国は、本指令でオペレーターが負う責任をカバーすることができる金銭的保証手段を構築するよう求められています。

ELD指令にはいくつかの見直し条項があります。それら条項において、欧州委員会は、環境損害を実質的に修復する手段として本指令が有効かどうか、また保険もしくは金銭的保証の手配可能性について、2010年4月30日までに報告を行わなければならないことになっています。さらに、欧州委員会は、2014年4月30日までに、ELD指令の改正に関する提案、国際的な責任補償体制、LLMC条約に基づくオペレーターの責任制限の権利等について、欧州議会と欧州理事会に報告書を提出する義務を負っています。

国際P&Iグループは、EU加盟国によるELD指令の履行及びELD指令の見直し条項に基づく欧州委員会の報告につき引き続き監視していきます。

国際P&Iグループの全クラブが同様の回報を発行しています。

以上


09:00