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1999/08/16

第99-014号 台 湾 海 商 法 改 正 案 内

| by:sysadmin
第99-014号
1999年08月16日
外航組合員各位

台 湾 海 商 法 改 正 案 内
Amendment of Taiwan Maritime Code
                                

台湾海商法は、1931年に公布されて以後1962年に1度だけ改正された。海上運送に従事する船舶の船型は
年々新しくなり、海運界の変化に追いつくため多くの国際海事条約が改正され、海商法改正の必要性も高ま
ってきていた。1999年7月14日に改正海商法が公布され、7月16日に発効した。新海商法は、1968年ヘーグ
ヴィスビールール、1974年ヨークアントワープルールなど、いくつかの国際条約、規則の原則を取り入れて
いる。新海商法の適用事例が生ずるのはこれからだが、今回の改正に興味のある関係方々に新海商法の概要
を紹介する。

1.責任制限(第21−23条)

 (1)責任制限権利者
    新海商法は1957年責任制限条約の原則を採用し、当該船舶の船舶所有者、裸傭船者、船舶管理者、
    船舶運航者は全てその責任を制限できると規定している。新海商法の第21条によれば、定期用船者
    及び航海用船者は船舶の運航者と見なされない限り、責任を制限することができない。一方新海
    商法は、1976年条約で規定するような責任保険者、救助者、船長、船員、その他の船主の使用人に
    までは、責任制限権利者の対象を広げていない。

 (2) 責任限度額
  A. 新海商法では、船主の責任限度額の計算にあたり2つの方法を採用している。1つは船舶の残存価額
    に得べかりし賠償金及び運賃を加えた金額を責任限度額とするもの。もう1つは、船舶の総トン数を
    使用して責任限度額を計算するもの。実際に適用される責任限度額は、この2つの方法で計算された
    金額のうちいずれか高い方となる。1976年条約では責任限度額の計算にあたり、船舶の最低トン数
    を500総トンとしているが、新海商法では300総トンとしている。従って責任限度額の最低額は、1976年
    条約に比べ新海商法の方が低くなっている。

    B. 1976年条約では責任限度額を計算するにあたり、船型が大きくなるに従って変化する傾斜割合を
    使用しているが、新海商法では固定傾斜率を採用し、1総トン当り人損については162 SDR、物損に
    ついては54 SDRとしている。

 (3) 責任制限阻却事由
    新海商法では損害が責任を制限しようとする者の故意又は過失“willful misconduct or
    negligence”により生じたことが証明された場合には、責任を制限することができない。また責任
    制限の対象から除外される債権が、次のとおり拡大された。
    1) 船長、船員その他の船舶に服務する者との雇用契約から生ずる債権
    2) 救助報酬債権及び共同海損分担額
    3) 有毒化学製品の運送に伴って生じた損害に関する債権及び油濁損害に関する債権
    4) 放射性物質又は放射性廃棄物の運送に伴う放射能事故から生じた放射能損害に関する債権
    5) 原子力船により生じた放射能損害に関する債権
 
    新海商法では、損失が船主自身の故意又は過失“willful misconduct and negligence”の結果
    生じたことが証明された場合に限り、責任制限の権利が失われることが明記されたため、責任制限
    のブレイクがこれまでより困難になると思われる。英国の判例“The Lady Gwendolen”では、
    視界不良時の減速航行を勧告した運輸大臣通達に関して、船長への特別な注意喚起をしなかった
    海務監督の怠慢は、船主の故意“actual fault or privity”とみなされた。台湾では、同一人格
    “alter ego”理論が裁判所で判断されたことはなく、会社の上級管理職の過失が、会社自身の
    過失になるかどうかは明らかではない。

 (4) 制限基金
   新海商法には制限基金の形成、分配、及び制限手続きに関する規定がない。将来この点に関する争い
   が避けられない。

2.海事先取特権(第24−32条)

 (1) 新海商法第24条に従い、次の債権には船舶先取特権が認められる。
  1) 船長、船員その他船舶上で職務に従事する者との雇用契約から生ずる債権
  2) 船舶の運航から直接生じた死亡傷害に関する船主に対する債権
  3) 救助報酬債権、船骸撤去費用、共同海損船舶分担額
  4) 船舶の運航から直接生じた陸上水上の財物の損失損害に関する船主に対する不法行為請求債権
  5) 港使用料、運河通行料、その他の水路通行料、及びパイロット料金

 (2) 海事先取特権の順位
   第24条の海事先取特権は、抵当権に優先する。船舶の建造修理に関する債権の留置権は、海事先取
   特権に劣後するが抵当権に優先する。海事先取特権債権の優劣順位の決定にあたっては、時間が常に
   重要な要素である。同一航海から生じた海事先取特権は、第24条に列記された順となる。同一種類の
   複数の海事先取特権債権は、債権額の割合で配分される。しかし第24条1(3)の救助報酬債権、船骸
   撤去費用、共同海損分担額は、後で生じたものが優先する。複数の海事先取特権債権が異なる航海で
   生じた場合には、後で生じた順に優先する。

 (3) 海事先取特権の時効
   新海商法第24条の海事先取特権は、その債権が生じた時から1年以内に実行されなければ消滅する。
   この規定は旧海商法からの重要な変更である。1993年条約第9条の規定と異なり、この1年の時効は
   船舶の差押さえ又は拘留によっても中断されない。

3.船長及び船員
   この章は全て削除され、船長及び船員に関する法令は、1999年6月25日発効の、新たに公布された
   船員法に規定された。この新船員法は、船員の試験、年金、作業環境等の管理問題、及び船長の権利
   と責任に関する問題について規定している。

4.海上物品運送契約(第38−78条)
   新海商法は、ヘーグヴィスビールールの主な原則を取り入れている。新海商法の重要な改正個所及び
   その考えられる影響について以下に紹介する。

 (1) 運送人の責任期間(第50条)
   旧海商法第90条では、運送人の責任は、本船からの揚荷時に終了するとされていた。この規定は今や
   古臭いものになり、新海商法では運送人の責任期間を本船よりの揚荷時から、荷受人の管理のもとへ
   の貨物引渡時までに拡張した。

 (2) 荷役準備整頓通知“Notice of readiness”及び碇泊期間“Laytime”計算(第52条)
   旧海商法では、有効な荷役準備整頓通知の要求について特に規定はなく、本船が実際に荷役準備が
   できる前に発行された荷役準備整頓通知は無効であって、碇泊期間の計算は開始しないと規定されて
   いた。新海商法では「一たび滞船料期間に入れば、常に滞船である」“Once on demurrage,
   always on demurrage”の原則が本条に明記された。

 (3) 積荷明細(第54条)
   荷送人が提供する書面通知に従ってB/Lに記載された積荷の名称、重量、個数等の明細は、新海商法
   では、運送人がB/L記載とおりの貨物を受け取ったことの一応の証拠“prima facie evidence”と
   規定している。従ってこの規定により、“said to be”、“said to contain”などの文言は、効果
   が期待できないものとなった。しかし積荷の「状態」は本条の規定に含まれていないため、運送人が
   受け取った時の積荷の実際の状態を証明する義務は、引続き積荷関係者が負う。

 (4) 時効(第56条)
   積荷の滅失又は損傷によるカーゴクレームは、積荷の引渡し又はその予定日から1年経過後、時効に
   より消滅する。この規定の解釈により、積荷関係者は1年以内に訴訟を提起する必要があり、そうし
   なければ新海商法のもとでは時効になる。さらに留意すべきことは、台湾で特に重要視されるAnglo
   −Americanの法律システムでは、当事者間の時効延長の合意は無効とされているため、台湾の裁判所
   で争われた場合には、時効延長の合意があっても、クレームが時効扱いされることは避けられない。
   なお荷送人のカーゴクレーム及び遅延損害クレームは台湾民法に従うことになり、積荷の引渡し又は
   その予定日から2年以内に裁判所に訴訟が提起されなければならない。しかし台湾民法規定も近々1年
   に改正予定であり、2000年5月5日にこの改正も発効予定である。

 (5) 損害通知(第56条)
   旧海商法ではクレームする者に対し、3日以内に書面の損害通知を出するよう要求している。新海
   商法はヘーグヴィスビールールの規定を採用しており、そのような書面の損害通知は、積荷の引渡し
   にあたっての一応の証拠でしかないと規定している。クレームする者はもちろん積荷の滅失損傷を
   証明するために、サーベイレポートを提出することができる。

 (6) C/P摂取B/L(第60条)
   発行されたB/LにC/Pが摂取されていても、B/L所持人が荷送人以外の第三者である場合には、C/P条項
   はB/Lには適用されない。別の言い方をすればC/Pは、運送人と第三者B/L所持人との間の契約関係に
   影響を与えることはない。

 (7) 運送人免責事由(第69条)
   新海商法のもとで運送人が援用できる17の免責事由は、ヘーグヴィスビールールの規定と類似した
   ものである。

 (8) パッケージリミテイション(第70条)
  A. パッケージリミテイションは、NTD9,000(約US$290)から引き上げられ、パッケージ当り666.67
    SDR (約US$920)又はキログラム当り2SDRのいずれか高い方となった。

  B. 新海商法の第70条では、パッケージを運送品の梱包単位と定義している。積荷をまとめるために、
    コンテナー、パレットその他類似の運送用具が使用されている場合は、B/Lに記載された梱包単位の
    数を、第70条のもとでのパッケージリミテイション計算に使用する梱包数とみなす。コンテナーが
    荷送人によって提供されている場合には、コンテナーそのものをパッケージリミテイション計算
    単位とする。

  C. 運送人又は船主は、滅失損傷が運送人又は船主の故意又は重過失“deliberate act or gross
    negligence”による場合は、パッケージリミテイションの利益を享受することができない。

 (9) ヒマラヤクローズ(第76条)
   台湾裁判所の判例では、B/L裏面に印刷された全ての条項を、運送人による一方的な意志によるもの
   であって、B/L所持人はそれらの条項に拘束されないとしていた。このため運送人の代理人及び使用
   人は、B/Lに印刷されたヒマラヤクローズを援用できず、運送人が積荷関係者に対して可能な免責
   及び責任制限の利益を享受できなかった。このため、及び海運関係者からの圧力により、新海商法の
   第76条では、ヒマラヤクローズに法的効果を与え、運送人が享受できる特権は、その代理人、使用人
   及び港湾地域で業務を営むターミナルオペレーター、荷役人夫会社、検数会社にも拡張されて援用
   可能となった。この改正は関係当事者の交渉の結果であり、ここに明記された独立契約者は厳密に
   解釈される。すなわち第76条第2項の通り、港湾地域内で業務を営む者に限り運送人としての特権を
   享受できる。しかし台湾のターミナルは、Taichung及びKaohsiungではほぼ港湾地域内に位置して
   いるが、Keelungでは船舶業務を提供しているターミナルの多くは、港湾地域外に位置している。
   運送人としての特権の享受の対象から除外されたKeelungのターミナルオペレーターからの、抗議の
   嵐が避けられないと思われる。

 (10) 裁判管轄及び準拠法(第77及び78条)
   新海商法では、台湾からの輸出入貨物のB/Lで証明される契約から生ずる係争事案に関しては、台湾
   の裁判所が裁判管轄を有する。仲裁条項については、前にも説明したとおり台湾では、B/L裏面に
   印刷されたような条項は、運送人の一方的な意志によるものであって積荷関係者を拘束しないとされ
   るため、当事者は仲裁条項には拘束されないが、新海商法第78条に従って、当事者が同意すれば係争
   事案は台湾で仲裁することができる。新海商法第77条では、荷送人又は荷受人が台湾籍であり、新海
   商法のほうが保護が厚いのであれば、新海商法が適用される。しかし「保護が厚い」との意味が明確
   ではない。裁判所はその係争事案に、精通していない外国の法律よりは、新海商法を喜んで適用する
   であろうことは想像できる。

5.衝突(第100及び101条)
   新海商法によれば、衝突船舶の船主は、両者間で合意した裁判管轄で係争することが認められる。
   海上での衝突を理由として差し押えられた船舶の、差押え解除のために提供される保証は、一流の
   銀行又は保険者から発行される保証状で可能とする。なお規定では触れてはいないが、外国の銀行、
   保険者、PI Clubから発行される保証状は、裁判所は慣例として受け付けない。

6.救助(第103条)
   新海商法では救助に関し、たった8条の規定しか設けていない。台湾水域で海難が生じた場合には、
   通常台湾海軍が救助にあたる。救助に先立って海軍が、被救助船にLOF契約を要求するとの話は聞い
   たことがなく、救助報酬を船主に要求する話も聞かない。基本的には「不成功無報酬」原則が救助
   クレームに適用される。にもかかわらず新海商法は、環境保護を目的として、1989年救助条約に規定
   されている「Safety Net」及び「特別報酬」の仕組みを取り入れた。この意味は不成功無報酬原則で
   はあっても、救助者は船主に対し救助作業に要した費用についてクレームできるとするものである。
   Nagasaki Spirit事件で生じた問題、すなわち救助者の費用がその実費を基準として計算されるべき
   か、もしくは妥当な利益を含むことができるかの点について、新海商法の規定では触れていない。

7.共同海損(第110-125条)
   新海商法の公布によって、台湾で適用される共同海損の仕組が全体的に変更された。新海商法では、
   ヨークアントワープルール(YAルール)の法的骨格全体を取り入れ、被救助物件の分担価格、共同
   海損犠牲損害、共同海損費用の計算方法を大きく変更した。しかし新海商法での共同海損の定義は、
   YAルールと多少異なる。新海商法第110条では、共同海損を、船舶の航海中の共同の危険のもとで
   生じたものと定義し、YAルール規定のように海上の危険のもとで生じたことを必要とはしていない。

8.海上保険(第126-152条)
   台湾では、海上保険契約当事者は、契約上生ずる争いについて英国法の適用を合意している。従って
   新海商法の海上保険に関する規定が適用されることはほとんどない。新海商法は、海上保険の定義、
   保険価額の計算、被保険者による損害軽減義務、アバンダンメントの条件と効果などに関し、1906年
   英国海上保険法の規定の原則を採用している。

新海商法は1999年7月16日に発効しており、その日以前に発効されたB/L、生じた衝突は、引続き旧海商法が
適用される。新海商法は公布されて間がないため、パッケージの定義など不明確な規定に関しては、今後の
判例の中で明確にされていくものと思われる。
以上
添付ファイル:99-014.pdf

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