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2015/07/10

第15-008号 船舶からのCO2排出の測定・報告・検証に関する規則について

| by:国際部 編集用

印刷用:No.15-008(J)

第15-008号

2015年7月10日

 

外航組合員各位

 

船舶からのCO2排出の測定・報告・検証に関する規則について

 

本特別回報は2015年7月1日に発効した新たなEU規則2015/757[1]についてご案内するものです。規則はEUによるCO2排出削減取り組みの一部として海上輸送のCO2排出規制を扱っています。2014年2月5日に欧州議会は、1990年レベルと比較して少なくとも40%の温室効果ガス削減目標を設定するよう欧州委員会及びEU加盟各国に求める決議を採択し、同決議に従い本規則が制定されました。

 

海上輸送はCO2等の排出により地球環境及び大気環境に影響を与えます。国際海上輸送によるCO2排出はEUに関係するものだけでも1990年から2007年の間に48%増加しています。しかしながら、国際海上輸送は未だ温室効果ガス排出削減に関するEU提案に含まれていない唯一の輸送手段となっています。

 

地球環境における海上輸送の影響について科学的理解を深めるべく、定期的なアセスメントを実施し、欧州委員会にて将来的な船舶からのCO2等の排出削減のための政策及び措置を検討することが決定されました。IMOのデータによると、船舶のエネルギー消費及びそれに伴う排出は、現在の利用可能な措置と技術を実施すれば75%の削減が可能であるとされています。船舶からのCO2排出を削減する最善の方法は、船舶の燃料消費に基づくCO2を測定・報告・検証(Monitoring, Reporting and Verification、MRV)する仕組みを構築することであると考えられています。MRVシステムは、各種規定が複雑で技術的性質を有すること、EU全体で統一した規則が適用される必要があること、EU全体での当該提案の実施を促進する必要があることから、規則として規定されています。

 

新規則は2015年7月1日に発効しました。以下、規則の主要な内容をご案内致します。

 

1.総則

 

1.1. 規則のArticle 2.1では、新規則は5,000総トン以上の船舶を対象とし、最終寄港地からEU諸港への航海中及びEU諸港から次港への航海中のCO2排出を扱うことを規定しています。また、規則はEU諸港間の航海にも適用されます。

 

1.2. Article 3(b)で、「寄港地」とは船舶が積荷又は揚荷のために、あるいは乗客の乗下船のために停泊する港と規定されていますので注意が必要です。従いまして、その他の停泊(例えば、燃料補給、ドライドック、荒天避難等)は含まれません。

 

1.3. また、規則では測定及び報告の責任を負う者を「Company」と表現しています。Article 3では「Company」について、「船舶の所有者」もしくは「船舶管理者や裸用船者等のような船主から船舶の運航責任を請け負った者」と規定されています。そのため、CO2排出の測定及び報告について誰が責任を持つのか(船主、船舶管理者、用船者)について、関係者間で合意しておくことが必要になるでしょう。以下でご案内します通り、当該義務違反の場合には過怠金が課されることになり、それは関係者のいずれにとっても望ましくないことです。

 

1.4. さらに、規則ではCompanyが規則の要求事項を遵守しているかどうかを検証するために「検証者」が特定の活動を実施することを規定しています。「検証者」とは、「欧州議会及び欧州理事会規則No.765/2008及び本規則に基づき公認認定機関により認定された検証活動を実施する法人」とされています(Article 3(f))。

 

1.5. 軍艦、戦艦補機、魚捕獲・加工船、原始的な作りの木船、機械式プロペラを備えていない船、非商業目的に用いられる政府船、は本規則の対象から除外されます(Article 2.2)。

 

2.測定・報告・検証(MRV)

 

2.1. 規則のArticle 4は測定及び報告に関する一般原則を規定しています。5,000総トン以上の船舶の船主は、船舶が洋上にいる間と着桟中の燃料消費から生じるCO2排出に関する報告を提出しなければなりません。断続したデータとならずに全期間がきちんとカバーされるよう適切な措置を取る必要があります(Article 4.2)。また、データは正確なものでなければならず、船主は誤りについてその原因を特定し防止する義務を負います(Article 4.5)。

 

2.2. 測定と報告は一致したものでなければなりません。得られたデータが長期間の比較に用いられ、排出量の増減が正しく測定されるように、同一の測定方法とデータ設定が用いられる必要があります(Article 4.3)。測定データは透明性のある方法で収集し記録しなければなりません。これにより検証者は同一の方法を用いて船舶のCO2排出を決定することが可能になります(Article 4.4)。

 

2.3. 規則のArticle 5は、船舶からの排出及びその他関連情報の測定及び報告方法について規定しており、Annex I及びIIに記載された方法に従うことを規定しています。Article 5.1に基づき、Annexに記載された方法がCO2排出及びその他関連情報を決定する上で用いられます。

 

CO2排出の決定方法

 

2.4. 詳細についてはAnnex I及びIIの規定をご参照下さい。主要事項について概要を以下の通りご案内致します。CO2排出決定方法の計算式は以下の通りです(Annex Iに規定)。

 

燃料消費量 × 排出ファクター

 

排出ファクターについては、当該燃料についてBunker Delivery Noteに規定された燃料品質データを用いる場合を除き、初期値を使用します。

 

実際の燃料消費量の算出において、Annex Iでは以下の方法のいずれかを用いることを規定しています。

 

方法A:Bunker Delivery Notes及び定期的な燃料タンクの測定

 

この方法はBunker Delivery Noteに記載された燃料の数量と品質に基づき、定期的な燃料タンクの測定を行い算出するものです。測定開始時の燃料量に供給量をプラスし、そこから測定終了時に残った燃料量とデバンカーした数量とを差し引いた数量が消費した燃料となります。

 

燃料タンクの測定は、自動システムや測深テープといった方法で行う必要があります。どの方法を用いるかについては、モニタリングプラン(以下参照)で特定しておく必要があります。

 

方法B:本船燃料タンクの計測

 

この方法は本船上の全ての燃料タンクの計測を行うものです。計測は本船が海上にいる間毎日と燃料供給及びデバンカーを行う都度実施します。計測された数量に基づき、2港間の移動や港内停泊中の期間に消費した燃料量が算出されます。

 

上記同様、燃料タンクの計測は適切な方法でなければならず、モニタリングプランで特定しておく必要があります。

 

方法C:燃焼過程の流量計測

 

この方法は本船上の燃料の流量を計測するものです。特定期間の全燃料消費量を決定するために、関連のCo2排出源にリンクする全ての流量計からのデータを統合します。なお、期間とは2港間の移動や港内停泊の時間を指します。

 

方法D:直接排出計測

 

この方法は本規則の範囲内の航海でEU加盟国内に所在する港で生じる排出に用いることができます。本方法を用いて報告を行う場合、測定したCO2排出と当該燃料に適用される排出ファクターを用いて燃料消費量を算出することになります。

 

この方法は、排気ガスのCO2濃度に排気ガス流量をかけて排気ガス口(ファンネル)のCO2排出量を決定するものです。

 

モニタリングプラン

 

2.5. Article 6.1に基づき、2017年8月31日までにCo2排出の測定及び報告方法並びにその他関連情報を含むモニタリングプランを提出しなければなりません。各「Company」は規則が適用される各船でそれぞれのプランを提出する必要があります。2017年8月31日以降に初めて本規則の適用対象となる船舶の場合には遅滞なくプランを提出しなければなりません(Article 6.2)。

 

2.6. モニタリングプランは、特定の船舶に用いられる測定方法を完全かつ明確に示す書類でなければなりません。モニタリングプランは以下の事項を含む必要があります。

 

a)   船舶情報(船名、IMO番号、船籍港、船主名、船種)

b)   「Company」の測定及び報告責任者の連絡先

c)   本船上のCO2排出源(主機、補機、ガスタービン、ボイラー、イナートガス、

ジェネレーター)及び使用される燃料の種類

d)   排出源リストの更新のための手続き、システム、責任の詳細

e)   航海リスト完成のモニター手続きの詳細

f)   燃料消費量測定手続きの詳細

g)   航海毎の活動データの決定手続き及び代替データ(データにギャップがある場合)の決定に用いる方法の詳細

h)   改定の詳細を記録した改定履歴

 

2.7. 上記の通り、モニタリングプランは広範囲な情報を含む書類であり、手続きの効率化及び統一のために定型フォームが用意される予定です。同フォームは未だ決定していませんが、Article 6.4の規定に従い近い将来に実施規則の中で決定される模様です。

 

2.8. Article 7は、以下の場合にCompanyはモニタリングプランを改定しなければならないことを規定しています。

 

a)  Companyの変更(当該船舶に関して別の者にその役割が移った場合)

b)  モニタリングプランに記載されていない新たな排出源や燃料の使用

c)  データ測定方法の変更(新たな方法が用いられるような場合)

d)  以前用いていた方法によるデータが不正確であることが判明した場合

e)  モニタリングプランが上記基準に合致しない場合(モニタリングプランが基準に合致しない場合、Companyは検証者からプランの修正を要求されます。その他の状況の場合には、Companyは遅滞なく検証者に予定している改定を通知しなければなりません。)

 

2.9. モニタリング方法を決定しモニタリングプランを作成したら、Companyは各船のCO2排出を毎航海及び毎年モニターしなければなりません(Article 8)。


2.10.CO2排出が航海毎に測定される場合、Article 9は以下の情報を測定するよう規定しています。

 

a)  発着港(発着日時を含む)

b)  消費燃料の種類ごとの総量と排出ファクター

c)  排出CO2

d)  航行距離

e)  航行時間

f)  積載貨物

g)  輸送作業

 

但し、全航海がEU諸港での発着の場合もしくは1隻が年間300航海以上行う場合には航海毎の排出を測定する必要はありません。

 

2.11. CO2排出が年間ベースで測定される場合、Companyは各船毎に以下を測定しなければなりません。

 

a)   全消費燃料の種類ごとの消費量と排出ファクター

b)   総CO2排出量

c)   以下の全航海からの累積CO2排出量

(1) EU諸港間の航海

(2) EU諸港から出港した航海

(3) EU諸港へ寄港した航海

d)   EU諸港内着桟中のCO2排出

e)   総航行距離、総航行時間、船舶の総輸送作業、平均エネルギー効率

 

なお、モニタリングプランは2017年8月31日までに検証者に提出しなければなりませんが、規則前文39では「最初の報告期間」2018年1月1日より開始するとしています。これはEU加盟各国や船主等が規則に規定されるMRV義務に対応するための猶予期間です。

 

3.規則適合書

 

排出レポート

 

3.1. 2019年以降、毎年4月30日までにCompanyは欧州委員会及び旗国当局に排出レポートを提出することが義務付けられます(Article 11)。当該レポートは関連期間におけるCo2排出やその他関連情報を含むものとなるでしょう。各船毎にそれぞれレポートを作成し、検証者の検証を受けなければなりません。

 

3.2. 排出レポートは船舶及びその船舶に責任を負うCompanyを特定するものでなければならず、船名、IMOナンバー、船籍港、船主名、船主住所(及びCompanyが船主と異なる場合にはCompanyの会社名と住所)を含み、また、当該レポートの査定を行った検証者も明記しなければなりません。さらに、使用したモニタリング方法とその結果についての情報も含む必要があります。

 

3.3. 規則のArticle 12では、排出レポートは特定の様式に従わなければならないことを規定しています。モニタリングプランと同様に、レポートも電子書式を利用してモニタリングデータ提出のための自動システムを用いて提出が可能となる見込みです。この点に関する詳細は実施規則で定められることになります。

 

検証レポート

 

3.4. 排出レポートが提出されると、検証者は検証レポートを作成することになります。Article 13 (2)に基づき、検証者は排出レポートが上記規則の要求を遵守したものかどうか、モニタリングプランが遵守されているかどうかを査定します。検証者が排出レポートに重大な虚偽記載がないと合理的保証を持って結論付けた場合、検証者は排出レポートが十分に検証された旨の検証レポートを発行します(Article 13.4)。

 

3.5. 一方、Article 13.5に基づき、排出レポートに虚偽が含まれていたり規則に合致していない場合には、検証者はCompanyにタイムリーにその旨通知し、Companyは当該エラーを修正し(あるいはエラーの理由を説明する追加情報の提供)、期限内に検証プロセスが完了するようにしなければなりません。検証レポート最終版には特定されたエラーが解消されたかどうかが記載されます。エラーが解消されずに重大な虚偽記載につながる場合、検証者は当該排出レポートは規則を遵守していない旨記載したレポートを発行することになります。

 

規則適合書

 

3.6. 排出レポートが規則に合致し、その旨の検証レポートが発行された場合、当該船舶の「規則適合書」が検証者により発行されます(Article 17.1)。当該書類には船名、船主名、検証者名、及び当該書類の有効期間が記載されます。Article 17.3では規則適合書は報告期限終了後18か月間有効であると規定されています。規則適合書発行後、検証者は欧州委員会及び関係旗国の当局に通知しなければなりません。

 

3.7. Article 18の規定に基づき、報告期間が終了したその年の6月30日までに、当該報告期間中に規則の対象となる航海を実施しEU諸港を発着した船舶は有効な規則適合書を本船に保持しなければなりません。

 

4.違反の際の罰則

 

4.1. Article 19では、EU加盟各国に測定及び報告義務の遵守を図るための必要な措置を取ることを義務付けています。EU加盟各国は当該船舶に発行された規則適合書を規則遵守の証拠として見なします。EU諸港で実施される船舶の検査(Directive 2009/16/EC[2]に基づき実施)では、有効な規則適合書が本船上に据え置かれているかどうかがチェックされます。

 

4.2. EU加盟各国は、実効的で相応の抑止力を持った罰則システムを構築し、2017年7月1日までに欧州委員会に通知することが求められています。また、当該罰則措置に変更があった場合には遅滞なく欧州委員会に通知することとされています(Article 20 .1)。当該罰則措置がどのようなものになるかが判明していないため現段階では何も申し上げられませんが、船舶の寄港先でそのような罰則措置が制定されているかどうか、制定されている場合にはどのような規定になっているかチェックする必要があります。

 

4.3. 規則では、船舶が測定及び報告義務を2報告期間以上に亘り連続で違反しその他の是正措置が功を奏しなかった場合に、最も重度の罰則(入港拒否命令)が適用されることを規定しています。入港拒否命令は船舶が入港するEU加盟各国の当局により発行されます。当該命令が発行されると、欧州委員会、EMSA(European Maritime Safety Agency)、EU加盟各国、及び当該船舶の旗国に通知されます。当該命令が出されると、EU加盟各国はCompanyが測定及び報告義務を果たすまでEU諸港への当該船舶の入港を拒否することになります。なお、本船に発行されている有効な規則適合書が測定及び報告義務が果たされたことの証拠となります。

 

4.4. 当該罰則は極めて厳しいものであるように見受けられますが、規則では当該罰則は国際海事規則に影響を与えたり優先するものではないとされており、海難に遭遇した船舶に対しては通常適用されないと考えられます。また、Article 20. 3aでは、EU加盟各国は「船舶の船主又はオペレーター」が入港拒否命令に対して裁判所に効果的な救済を求める権利を確保し、その権利について入港拒否命令を出す当局により船主又はオペレーターに対して適切に通知されるようにしなければならないと規定しています。

 

5.EU以外のCO2排出規制

 

米国

 

5.1. 米国ではEPA (Environmental Protection Agency)が大気汚染軽減のための施策を実施しています。当該施策には、US Clean Air Actに基づく国内規則、米国沿岸での排出規制区域(ECA, Emission Control Area)の指定や米国外での船舶に関する新国際基準の採用を含む国際海事機関(IMO, International Maritime Organization)を通じた取り組みがあります。

 

5.2. 船舶による汚染防止のための国際条約の附属書VI (MARPOL Annex VI)は400総トン以上の全ての船舶に適用されますが、米国で施行されています。当条約は船舶からの大気汚染物資の排出削減を目的とした新たな国際基準を規定しています。当該条約は大気汚染の影響が大きい特定の沿岸エリアを航行する船舶に対してより厳格な排出規制を設けるべく2008年に改定されました。当該エリアは排出規制区域(ECA, Emission Control Area)と呼ばれています。2015年1月1日より、当該エリアに入る船舶は硫黄分が0.1%未満の燃料油に切り替えることが義務付けられています。

 

5.3. また、改定MARPOL Annex VIは2013年1月1日に発効していますが、特に船舶検査、サーベイ、証書に関する新たな要求が導入されています。MARPOL Annex VIにおけるサーベイの規定では、船舶及びそのエンジンがAnnex VIの基準を確実に遵守するための一連の検査を規定しています。当該検査には第一次サーベイ(同サーベイ後に船舶が基準を遵守していることが確認された場合には国際大気汚染防止証書が発行されます)及び同証書が再発行される際の定期サーベイが含まれます。

 

5.4.   EUにおける新規則とは異なり、MARPOL Annex VIはUSCGが検査を実施すること、及び適合証書は5年間有効であることを規定しています。報告システムは船主にあまり負担とならならず、船舶からの排出を継続的かつ頻繁に測定する必要が少ないものとなっています。

 

香港

 

5.5. 2015年6月25日付Japan P&I News No.738[3]でご案内しました通り、香港議会は香港に寄港する船舶が0.5%以上の硫黄分を含む燃料油を使用することを禁止する法律を制定しています[4]。同法律は2015年7月1日に発効しました。同法により香港は船舶による排出規制を行うアジアで最初の地域となりした。法案が提出された当初は船主の間で懸念が呈されましたが(低硫黄燃料油は価格が高い)、香港環境保護庁は、低硫黄燃料油と同レベルまで硫黄排出を削減するスクラバー等のテクノロジーを用いれば船舶は香港寄港中に低硫黄燃料油への切り替えを行う必要がなくなるとの声明を出しています。

 

5.6. また、新規則では低硫黄燃料油への切り替え日時を記録し関係記録を3年間保存しておくことを義務付けています。

 

5.7. さらに、規則違反の場合の罰則としては、HK$200,000(USD25,000)及び最長6か月間の懲役という厳しい措置が規定されています。また、燃料油切り替えに関する記録保持を怠った船主はHK$50,000(USD6,400)及び3か月間の懲役が課されます。

 

 

以上

 

 




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